俵万智のNHK短歌 「光る君へ」とのコラボ企画を展開している俵万智さんの回が、特別編として放送されました!
ゲストは、作家で書評家の渡辺祐真(スケザネ)さんがゲストです。
俵万智さんの選歌集「あとがきはまだ」の編者もつとめているのです。古典文学の研究もしています。
出演は、俵万智さんと渡辺祐真さん、そして、「光る君へ」のナレーションを担当している、NHKアナウンサー 伊東敏江さんです。
番組では、たくさんの和歌がご紹介されましたよ。
6月 NHK短歌特別編 俵万智が選んだ歌とシーンは?
俵万智さんにとって印象深いシーンと歌は、藤原兼家と寧子のシーンとこの歌でした。
蜻蛉日記の作者 藤原道綱母ですね。
藤原兼家の妾だった寧子(やすこ)が歌った嫉妬の歌。
あなたがなかなか来なくて、いつ来るのかと待ちながら寝る時間の明けるまで時間がどれだけ長いかあなたは知っているの?
という意味ですね。
これは、夫である兼家がひとりでさびしく待つ、という意味なのですが、スケザネさんは別の解釈ができる、といいます。
大河ドラマでのこのシーンは、藤原兼家が亡くなる時に、寧子が詠んだ歌を諳んじるという場面なのですが。
兼家が亡くなったあと、寧子は本当にひとりになってしまいます。
ひとりっきりで寝るようになるのですね。永遠に来ないあなたを待ちます。
一晩でなく永遠に会えない淋しさや孤独がいっそう募る、そんな歌にも読めると、スケザネさんは解説してくれました。
寧子のこれからの淋しさは癒されることがない、永遠の淋しさを感じて、私は胸が苦しくなりました。
兼家が今までのことを振り返った時に、
と言うシーンは印象的ですね。
「家」を守るために、多くの策略をめぐらし、息子たちへとそのバトンを渡す。
栄華の日々のなかで寧子と過ごした時は、兼家にとっても大切な時間であったことを、このシーンはつたえてくれている、と私は思いました。
寧子役の財前直見さんがゲストで登場した回は、こちらで詳しくご紹介しています。
和歌の喚起力、時間を閉じ込める力、を感じる歌だと俵万智さんは解説してくれました。
6月 NHK短歌特別編 渡辺祐真が選んだ歌とシーンは?
スケザネさんにとって印象深いシーンと歌は、藤原道隆と貴子のシーンとこの歌です。
これは、貴子が詠んだ恋の歌です。
思いは変わらないなんて言うけれど、そんなのはいつまで続くかわからないから、あぁ、今日で命が終わってもいいのに
という意味です。
というとても情熱的な歌なのですね。
藤原道隆はこの歌を聞いて、自分の伴侶は貴子しかいないと感じます。
歌を諳んじたあとの一言
は、また印象的なシーンでしたね。
俵万智さんは、藤原兼家と藤原道隆親子のこのシーンを見て、大河ドラマは和歌を大事にしている、と感じたといいます。
短歌が好きな私としても、ドラマの中で和歌が登場したり、和歌を書いているシーンがでてくるのは、とてもキュンキュンしてしまいます。
6月 NHK短歌特別編 藤原公任の歌とは?
歌の名手として知られている藤原公任の百人一首にとられている歌がこちらです。
藤原公任は、祖父も父も有力な政治家だったのですが、早めに引退したこともあり、公任自身は政治的には成功しませんでした。
現代では、政治家ではなく、文化人として知られていますね。
スケザネさんは、政治的には活躍できずとも、文化人としてその名をとどろかせている、公任の状況を重ねて読むことができる、と解釈しています。
俵万智さんは、この歌について、実体はなくなってるのに、名前だけとどろいてる、っていいことなの?という印象を受けています。
ひとつの歌でもいくつもの読み方があるのですね。
その自由さが、和歌(短歌)の良さだなぁ、と私は思いました。
また、俵万智さんは、この歌は、とても音がキレイだと言います。
どういうことかというと。
滝の音は絶えて久しくなりぬれど
takinootowa taete hisashiku narinuredo
名こそ流れてなほ聞こえけれ
nakosonagarete naokikoekere
t音とn音が韻を踏んでいて、滝の流れのように流麗だといいます。
たしかに!
和歌、短歌とは、意味だけでなく、音の美しさも感じることができるのですね。
「歌」と呼ばれる所以ですね。
私もそんな歌を詠んでみたいです。
この韻の踏み方は、現代に短歌を作る私たちにも大きなヒントになりますね。
6月 NHK短歌特別編 伊東敏恵アナウンサーが選んだ歌とシーンは?
伊東敏恵アナウンサーが選んだシーンと歌は、まひろと道長のやり取りのシーンですね。
藤原道長の従者、百彦(もずひこ)が和歌を届けるところから始まるシーンです。
そなたを思う気持ちを隠そうとしたが俺にはできない
そなたが恋しくて死にそうだ。そなたがすこしでも会おうと言ってくれたら、生きかえるかもしれない。
命とは儚い露のようなものだ。そなたに会うことができるなか、命なんて少しも惜しくない。
この三首を現在の文字で書いたものがこちら。
この三首は、すべて古今和歌集の恋の歌からとられています。
女性の恋文を送る時は、自分で詠んだ歌を送るのかと思いきや、古典から引用する、という手もあるのですね。
藤原道長は「歌が下手」という自覚があるので、この手法をとったと思われます。
でも、藤原道長は、古今和歌集の恋の歌を適当に選んだわけではないのです。
古今和歌集では、「恋一」「恋二」は、恋はしているけれど、結ばれてない歌が収められていて、「恋三」になると結ばれる歌になるのです。
藤原道長は、一首目は、「恋一 五〇三」、二首目は「恋二 五六八」、三首目は「恋二 六一五」の歌を選んでいて、番号がどんどん大きくなっています。
時を経るにつれ、思いもどんどん強く、情熱的になっているのが、私にもわかります。
そして、三首目の紀友則の歌は「恋二」の最後の歌。つまり、次は結ばれるしかない、というギリギリ瀬戸際の歌なのです。
このシーン、藤原道長はまひろに和歌をおくり、まひろは道長に漢詩をおくります。
和歌は思いをのせるもので、漢詩は志を著したもの。
まひろは道長に政治家としてやるべきことをやってほしい、と思い。
道長はまひろへの気持ちがあふれて、止まらない、様子。
俵万智さんは、まひろが漢詩を送ったワケについて、こんな見方をしています。
だから、漢字という鎧を自分の心に着せたのではないか、と。
まひろの思いが大きいからこそ、でも、それをまっすぐにぶつけてはいけない相手だからこそ、あえて自分の気持ちを隠す、そんなまひろに思いを馳せると、私は切なくなってしまいました。
6月 NHK短歌特別編 「光る君へ」での『枕草子』誕生の瞬間とは?
大河ドラマ「光る君へ」では、「枕草子」誕生の立役者となっているのが、まひろです。
髪を落とし、出家の身となった、中宮定子のために、春夏秋冬の四季を書いてみては?と、提案するまひろ。
枕草子といえば、「春はあけぼの」ですよね!
この瞬間、私も「おぉ~」となりました。
この時の伊東敏恵アナウンサーのナレーションがとても印象的だったので、ご紹介しましょう。
ここには、創作活動に携わる人に共有のメッセージがあると、俵万智さんは言いました。
最初から、多くの人の心に響く歌を作りたい、と思ってもうまくは書けません。
たったひとりのために書いた歌が、結果的に多くの人の心に届く、というのはよくあることなんです。
短歌に限らず、創作活動をしている人にとって大切なポイントですね。
「たったひとりのために」といって、私が思いだすシーンがあります。
2014年のソチ冬季五輪オリンピックでの、フィギュアスケート浅田真央選手のフリーの演技です。
金メダル候補だった浅田選手は、ショートプログラムでまさかの16位。しかし、フリーでは、6位に浮上。16位の時点でメダルは絶望的でしたが、浅田選手はフリーの演技でジャンプを飛ぶ時、「このジャンプは〇〇さんに」「このジャンプは〇〇さんに」とそれぞれ特定の人のためだけに飛びました。このフリーの演技は、世界中を魅了。私もテレビ越しに涙が止まりませんでした。今でも、思いだすと鳥肌がたちます。
たったひとりへの思い。私もその気持ちで歌を作っていきたいと思います。
6月 NHK短歌特別編 まひろとききょうはどこがちがう?
まひろ(紫式部)とききょう(清少納言)の違いは、紫式部が「あはれ」の文学、清少納言が「をかし」の文学、だと言われています。
実際に二人の歌をご紹介しましょう。
まずは、紫式部から。百人一首にとられている歌です。
幼友達と出会ったが、短いやりとりで別れた、ということを月になぞらえて詠んでいます。
百人一首にとられている、清少納言の歌はこちら。
藤原行成とのやりとりをした時の歌です。
「鳥のそら音」というのは、古代中国の政治家の孟嘗君が函谷関(かんこくかん)を鶏の鳴きまねで通り抜けた故事。
(引用:NHK短歌)
行成が、鶏の鳴きまねで関をあけたように、私は逢坂の関を開けたい(あなたに会いたい)
というのですが、
清少納言は、「そんなうそをいって、逢坂の関は開けません!」
中国の故事になぞらえて交わされた歌はウィットに富んでいますね。
「あはれ」の文学と言われる、紫式部の作品は、溢れる思い、相手への気持ちを抒情たっぷりに語っています。
一方、「をかし」の文学と言われる、清少納言の作品は、ウィットに富んでいますね。
「光る君へ」でも、まひろとききょうは、その性格も対照的に描かれていますが、生み出される作品も対照的、ということなのですね。
6月 NHK短歌特別編 放送日は?再放送は?
放送日:6月30日日曜日
放送時間:午前6:00~6:25
放送局:NHK Eテレ
再放送:7月4日木曜日
再放送時間:午後2:10~2:35
また、放送後一週間は、NHKプラスで見逃し配信が楽しめます。
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6月 NHK短歌特別編 まとめ
・放送日は6月30日日曜日
・ゲストは渡辺祐真(スケザネ)さん
31文字に込められた、壮大なドラマや人間関係。和歌においては、誰もが、無限に、想像の翼をひろげることができる、とスケザネさんは言いました。
平安時代にコミュケーションツールとして、実際に用いられていた和歌。
「光る君へ」を通して、そのなまなましい姿が明らかになっています。あの時代、確かに存在していた和歌というものが、千年以上経て、現代の私たちも取り扱っているのです。
人間の息遣いが聞こえてくる和歌。和歌からたくさん栄養をもらって短歌をつくりたい、と俵万智さんは言いました。
大河ドラマを見るなかで、和歌が確かに平安時代に存在していたことが私もはっきりわかりました。
それらの多くは、古今和歌集や百人一首として、私たちが触れることができるのです。
千年以上前の生活が、思いが、今、目の前にあるのです。
この豊かさに私は感動しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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